http://farmlandgrab.org/uploads/attachment/JICA緊急抗議2016年_最終版_(1)_(1).pdf
以下、12月7日付けで提出された「緊急抗議・要請」です。
JICAから届いた「回答書」も含めて、以下のJVCのサイトで詳しく紹介されていますので、そちらをご覧下さい。
http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2016/12/20161221-prosavana.html
独立行政法人 国際協力機構JICA
北岡伸一理事長殿
緊急抗議・要請
JICAによるモザンビーク農民・市民社会来日者への弾圧の試みについて
【経緯】
私たち日本の市民・NGOは、2012年10月11日に発表されたモザンビーク最大の小農運動(UNAC/全国農民連合)による「プロサバンナ事業[i]」への抗議声明を受けて[ii]、過去4年にわたり現地の農民運動や市民社会とともに、現地・文献・インタビュー調査に基づく政策提言活動に積極的に関わってきました。また、NGO・外務省定期協議会(政策協議会)の下で、外務省・JICA(国際協力機構)との定期協議の場を設け、これまで18回にわたる意見交換会を積み重ね、同事業の改善と記録の社会還元に務めています[iii]。
しかし、2013年後半期より、同事業に異議を唱える現地の小農(組織)や市民に対するモザンビーク政府関係者の付きまとい・脅迫・威嚇・弾圧が常態・深刻化しました。また、JICAによる情報開示と内部告発のリーク文書によって[iv]、JICAの資金提供によるモザンビーク小農運動や市民社会への介入と分断・隔離工作(「コミュニケーション戦略」策定と実行、「市民社会対話メカニズム」の結成等)が次々に明るみになったため、事業に関わる三カ国(モザンビーク、ブラジル、日本)の市民社会として、抗議と要請を繰り返している状態です[v]。
また、モザンビークでは、2013年に再燃した武力衝突が事業対象地でも発生し、1万人以上の難民が周辺国に流入する一方[vi]、2015年以降、現政権に批判的立場をとるジャーナリスト・学者・活動家の逮捕勾留・裁判・暗殺(未遂含む)が頻発するなど、人権侵害とガバナンスの悪化が顕著です[vii]。これを受けて、私たちは日本の市民社会は、日本政府・JICAに対し、現地の人びと、特にプロサバンナ事業に対して抗議の声をあげる人びとが置かれる危険な状況について共有し、命と安全を守るよう強く要請を行ってきました。
この11月、現地の状況を受けてモザンビークから農民組織のリーダー2名と市民社会組織メンバー1名を招聘しました。この中には、プロサバンナ事業へ反対の声を翻すよう、地方行政官に6時間にわたる脅迫(投獄や告訴を示唆)を受けた農民も含まれていました。
【出来事】
そのような人権状況があるにもかかわらず、モザンビークから招聘した3人が登壇する参議院議員会館での院内集会(11/28)にモザンビーク農業省次官と元副大臣(プロサバンナ事業担当[viii])を出席させ、反論させる目的で、加藤宏JICA理事(2013年10月から現職、アフリカ担当)自らの判断で、国費を使ってこれらの政府高官を日本に招聘したことが明らかになりました[ix]。また、主催NGOに相談もなく、駐日モザンビーク大使の出席がJICAとの間で「アレンジ」されていたことも分かりました[x]。JICAはNGO側の参加受付担当者に対して繰り返し参加に同意することを迫りました[xi]。
なお、院内集会では、プロサバンナやその他の事業に関するモザンビーク政府や外国企業による人権侵害が話されることが事前告知され、直前の11月17日にはJICAの関連事業によって深まる分断に抗議する3カ国市民社会の声明が北岡伸一JICA理事長宛に送付されています[xii]。これらを踏まえて、主催NGOらはJICAに政府要人の招聘と参加要請を止めるよう再考を迫りましたが、11月26日には、広島大学で開催された国際開発学会おいて、モザンビークからの招聘者3人も発表した研究報告に、JICA農業開発部の担当官が突然現れ、上記NGO担当者に「JICA加藤理事が待っている」として個人面談が要請されました。同担当官は研究報告を聞くことなく終了後会場に再び現れ、面談を要請しました。
一連の出来事を受けて、私たちはNGO側の代表者を面談に派遣し、加藤宏JICA理事から話を聞いた上で、強く抗議しました。週明けの院内集会では、JICAと外務省の担当者11名が参加する中、この問題を共有しました。また、モザンビークの農民からも、これまでの人権侵害と分断工作について、JICAに猛省を迫るとともに、すでに具体的な根拠(証拠)が文書の形である以上、これ以上の悪行を積み重ねないでほしいとの強い申し入れがなされました。
【緊急抗議・要請】
プロサバンナ事業は「三角協力」「南南協力」等と喧伝されてきましたが、上記「コミュニケーション戦略」の形成と実行から「市民社会対話メカニズム」の結成にいたる過去4年間の一連の市民社会への介入、分断・隔離工作に、ブラジルが関与した形跡はなく、日本の公的資金の供与と現地コンサルタント企業・NGOの契約といった積極的な関与なしには不可能であったことが、リーク文書を含む政府文書により明らかになっています。
その結果、プロサバンナ事業に対する抗議の声をあげる現地の小農や市民社会組織が排除・孤立させられ、現地政府関係者らによる脅迫・弾圧を受けています。そのことが3カ国市民社会により繰り返し訴えられるなかでの今回のJICAによる政府高官招聘は、日本政府の、モザンビーク現地情勢ならびに人権状況に対する認識と理解の決定的な欠如を象徴する出来事でした。結果的に、私たちの抗議によりモザンビーク政府高官らの院内集会への参加は見送られました。しかしながら、もし実現していれば、農民たちへの威嚇と恫喝となったことは明らかです。JICAが率先して、国民の税金で、政府高官らを3名の来日のタイミングに合わせて来日させたことは断じて許されることではありません。
以上を受けて、プロサバンナ事業において、日本政府とりわけJICAの責任が大きいものと考え、日本の公的国際協力の実施機関としてのJICAに対し、市民・納税者として、強く抗議するとともに、現地市民社会と協議の上、以下を緊急要請いたします。
1. 来日した農民・市民社会代表ら、そして現地の異議を唱える団体・農民・市民へのこれ以上の人権侵害や生命・財産の危険回避のための方策についての具体的な提案と実施。
2. 現地社会への介入と分断を深刻化させている「市民社会対話メカニズム」への資金提供の凍結。
3. 関連情報の即時・全面開示。
以上3点に対する回答を2016年12月20日(火)までに、まずは書面でご提出いただきたくお願いいたします。そこで具体的な対応・方策が見られない場合には、本抗議声明を広く公開させていただきます。
なお、JICAの資金提供による一連の市民社会の介入が明らかになり、3カ国市民社会がこれを抗議した2015年後半から現在までに、本事業の日本側責任部局のトップを務めてきた外務省国際協力局国別開発第三課課長・課長補佐、JICAアフリカ部長、アフリカ部参与、農村開発部次長、同部課長の全員が異動している状態にあります[xiii]。つまり、一連の活動を計画し関与した全員が責任を果たさないまま、一斉に異動する一方で、同事業は止まらないまま、現地で変わらず異議を唱え続けている人びとを危険な状態に追い込み、放置しています。
一方で、現地農民組織や市民社会組織によって繰り返し要請されてきた事業の緊急停止と抜本的見直しをしないまま、逆に公費をつぎ込んで「コミュニケーション戦略」を策定し、さらに現地市民社会に多額の資金を使って介入し、「賛成派」を作り出し、強行に事業を進めようとしてきた現実があります。このような国際協力の実施手法は、国連憲章に書かれた「国際協力」の基本的理念においても、外務省の開発協力大綱、JICA環境社会配慮ガイドラインにも、さらには世界人権宣言、国際人権規約にも明確に反しております。上記要請と共に、「農業開発協力」として破綻したプロサバンナ事業の緊急中止を、ここに強く申し入れます。
2016年12月7日
モザンビーク開発を考える市民の会
No! to landgrab, Japan
ATTAC Japan
アフリカ日本協議会(AJF)
日本国際ボランティアセンター(JVC)
[i] 正式名称は、「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発プログラム」で、2009年9月に三カ国の間で合意されている。
[iii] これらの記録は、外務省・NGOそれぞれのサイトに掲載されている。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/prosavana/index.html http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/
[iv] リーク文書はhttp://www.farmlandgrab.org/post/view/26158-prosavana-files、情報公開文書はhttp://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/index_docs.htmlに掲載されている。
[v] 「3カ国市民社会によるプロサバンナ事業に関する共同抗議声明・公開質問〜政府文書の公開を受けて」(2016年8月27日)
http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/ps20160827statement_ja.pdf その他の声明や要請については、次のサイトに掲載。http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/prosavana-jbm.html
http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/20161117-prosavana-japanese.pdf
[vi] 平成27年度NGO・外務省定期協議会 第3回ODA政策協議会(2016.3.3開催)協議事項2http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/shimin/page22_000146.html
[vii]平成27年度NGO・外務省定期協議会 第2回ODA政策協議会(2015.11.26開催)報告事項2
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/shimin/page23_001101.html
[viii] Ilidio Jose Miguel(農業省次官) 、António Raúl Limbal(元農業省副大臣)、Jose Maria Morais 大使 。
[ix] 同理事自身が、2016年11月26日のNGO代表との面談でこれを認めています。
[x] 2016年11月24日、モザンビーク大使館からの電話。
[xi] JICAの出席枠を削ってでもモザンビーク政府代表を座らせたいとの依頼(11月25日)を含む。
[xii] 「マスタープランの見直しおよび公聴会プロセスの不正に関する緊急声明」(2016年11月16日)http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/20161117-prosavana-japanese.pdf
[xiii] 外務省国際協力局国別開発第三課西永知史課長、今福孝男課長、垂井俊治課長補佐、JICAアフリカ部乾英二部長、飯村学参与、農村開発部田和正裕次長、同部農業・農村開発第二グループ第四チーム天目石慎二郎課長。