日本首相のモザンビーク訪問に対するADECRUのポジションペーパー
ADERCU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション)
http://farmlandgrab.org/uploads/attachment/ADECRU_s_Position_Paper_on_Abe_s_Visit_in_Japanese.pdf
2014年1月9日 マプト
日本の首相が、きたる1月11日から13日にモザンビークを公式訪問する。モザンビーク共和国大統領府の2013年12月24日発プレスリリースによれば、この訪問の主要な目的は両国の政治外交関係の戦略を評価することであり、またその一層の強化にむけた方策を定めることである。同様に、教育。エネルギー、農業分野での法的文書及び協力協定が交わされる予定である。
ADERCU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション)は、日本の安倍晋三首相の訪問及び日本のモザンビークとアフリカに対する外交政策が持つ、危険で帝国主義的な目的に反対し、断固拒否する。この目的は「両国国民の兄弟的な政治・友好関係を強化する」という外交的修辞の背後に隠されてはいるが、ProSavanaおよび『アフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス』.という名のプログラムに具体化されている(訳者注1)。安倍晋三首相の訪問は、日本のハイレベル・リーダーとしては初めての拡張主義的なものであるが、首相はこれに続いて、エティオピアとコートジボワールを訪問する。不思議なことに両国ともいわゆる「アフリカにおけるニュー・アライアンス」の対象国となっている。
我々の国への日本の首相の訪問に関するモザンビーク政府によるプレスリリースは、より広い文脈で理解する必要がある。すなわち、企業50社を従えたこの首相訪問は、21世紀においても進行し続ける構造調整の暴力的な最終段階の発現としてより広い文脈の中で理解されるべきものである。第二次大戦での敗北に由来する歴史的な諸問題と、今日のアジアにおける中国との覇権争いにより、日本は政策と外交目的を変えざるを得ない。日本は、数十年にわたりモザンビークの農業や他の部門の発展に貢献してきたが、米国やその他の勢力の帝国主義的利益に役立つ政策の施行者へと転換しつつある。
今日、日本の政府は、アフリカ大陸への侵入・占領・支配の「実働部隊、世界帝国主義の尖兵」となっている。正確には、アフリカ大陸とアフリカ民衆に対する企業の支配、そして植民地主義的征服であり、アフリカ人の主権―文化的多様性、生物多様性―への新たな攻撃であり、遺伝子組み換え種子を自由に導入・流通できる商業プラットフォームへと、アフリカを変質させるものである。そしてこのプラットフォームは鉱物資源開発企業および世界の食品産業の支配者・アグリビジネスからなる巨大多国籍企業群のためのものである。
モザンビークとアフリカにおける過去10年間の日本の政策とプレゼンスの危険性は、G8諸国と諸機関への屈辱的な依存と植民地主義的同盟に示されている。この同盟(ニュー・アライアンス)に加わっているのは、世界銀行、世界食糧農業機関(FAO)、 世界食糧計画(WFP)、日本国際協力機構(JICA)、 アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)、そして多国籍アグリビジネス(カーギル、伊藤忠、シンジェンタ、モンサント、ヤラ、African Cashew Initiative、Competitive African Cotton Initiative、Corvuns International、AGCO、日本植物燃料、ボーダフォン、SAMBMiller等)である。
日本は、植民地主義的な表現に従えば、もっとも経済的に発展した8カ国グループ(G8)の公式メンバーである。G8のその他のメンバーはアメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、ドイツ、カナダ、ロシアである。G8はモザンビーク政府を説得した結果、モザンビークでは前述した巨大多国籍企業と多国籍金融組織が「アフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス」と呼ばれる農業プログラムを実施している。
ニュー・アライアンスは、オバマ大統領のリーダーシップによりアメリカが最初に提案し、2009年のG8ラクイラ首脳会議(イタリア)で数カ国と金融機関、国際機関が合意したことから始まる。G8はアフリカ政府と協力して貧困削減のために5000万人を貧困から脱却させると主張した(うちモザンビークでは2022年までに310万人)。アフリカ20カ国が参加を計画しており、すでにブルキナファソ、コートジボワール、エティオピア、ガーナ、モザンビーク、タンザニアの6カ国が加盟している(訳者注2)。
モザンビークでのニュー・アライアンスは、世界銀行、WFP、JICA、USAIDと主要な多国籍アグリビジネスのリーダーシップのもとに進められている。「ニュー・アライアンス」の導入戦略は、包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)を取り込むことに基づいている。これは、G8の行動にある種の正当性を与えるためである。モザンビークでのニュー・アライアンス導入は、G8の農業分野での財政・技術支援を国別CAADPの優先投資計画である農業部門投資国家計画(PENISA)に沿ったものにするため、という理由付けがなされている。
日本は、植民地主義的三角協力において、別の巨大アグリビジネス・プログラム、いわゆるProSavanaのリーダーシップをとっているが、当該住民はこの三角協力に抗議している。ProSavanaは正式には2011年4月に発足、モザンビーク政府、ブラジル、日本の三角協力から生まれたもので、その目的は北部のナカラ回廊における熱帯サバンナの農業開発促進であるとされている。
すでに、ProSavanaの一部である「クイック・インパクト・プログラム」が実施されている(訳者注3)。しかし、モザンビークの市民社会が5月に横浜(第五回アフリカ開発会議)での公開討論で批判したように(訳者注4)、「クイック・インパクト・プログラムは通常カテゴリーAに分類されるプロジェクトであるにもかかわらず、こうしたプロジェクト執行に先立ってモザンビークの法が求める公開討論および環境影響評価の提出と承認が、全くなされていない」のである。
昨年12月の第五回ADERCU年次総会において、ニアサ、マニカ、ナンプーラ、ソファラ、ザンベジ各州におけるアグリビジネスとモノカルチャー植林の拡大について議論を行い、土地強奪、人権蹂躙、反対するコミュニティのリーダー達・運動・社会組織のメンバーに対する暴力と犯罪者扱いに関する責任は、現在の開発政策と農業プログラム(ProSavanaとアフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス)にあるとの結論に達した。またADECRUは、ナカラ回廊開発において起りつつある土地圧力の増加、人びとの追い立ての差し迫った危険、生計の破壊、水アクセスの困難、文化的遺産の破壊、社会・環境問題による紛争の責任は日本政府にあると確認した。
エコシステムと生物多様性の保全に民衆と農村コミュニティが果たしてきた貢献を再度確認し、自然環境を今の世代だけでなく将来世代の財産、集団の遺産とみなすコミュニティの価値観に照らせば、「現在進められている土地への権利の議論は、生活と生産の多様なあり方に価値がある」ことを無視している。 わたしたちは、土地、水、健康、教育、住居、安全な食への権利は相互に強く結びついており、政府と国家はこれを保証する主要な担い手でなければならないと主張し、これを再確認する。
ProSavanaとニュー・アライアンスは小農の耕作システムと家族農業の多面性を破壊するものであり、わたしたちはこうした帝国主義的なプログラムの危険性に警鐘を鳴らす。ProSavanaの道具であり、それを動かしているナカラ・ファンドとG8の食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンスは、小農の農業を破壊するものである。ナカラ回廊の農村コミュニティ、農民、社会運動、モザンビーク・ブラジル・日本の市民社会組織からの正当な、主権者としての要求に対し、モザンビーク政府、ブラジル、日本は答えようとしない。これは国民の主権を無視し、奪いとる行為である。
ADECRUは、ProSavana並びにニュー・アライアンスの実施を、以下の理由から批判し、拒否する。
・ モザンビークと全アフリカを「救う」ためにまとめられたこの政策は、新自由主義的で新植民地主義的同盟の意思決定の中核部で作られたものである。
・ 二重に有害な協定―ProSavanaとニュー・アライアンスの土台、基礎構造、戦略は、植民地時代とモザンビークとアフリカが500年間にわたって支配と抑圧に苦しんできた奴隷制の過去を思い起こさせ、人権と社会・環境の破壊をもたらす道を開くものである。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスはもっとも加虐的で攻撃的な搾取の道具であり、重商主義的な協力が再び始まっていることを告げている。しかもそれはアフリカを飢餓と貧困から解放するという慈善的な宣伝に隠されている。そして同じ多国籍機関と帝国主義諸列強が過去に行ってきた、いくつかのイニシアティブの失敗は無視されたままである
・ Prosavanaとニュー・アライアンスは土地の法的枠組みを弱めるための改変を促し進めている。この改変は、土地行政・政策をより透明で効率的なものにするという口実のもと、土地の貸与を、次いで土地の私有化を持ち込み、コミュニティと人びとの暮らしの維持と継続に不可欠な財産でもある土地の強奪を正当化するものである。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは、土地使用権証の取得を急がせることで、コミュニティとの協議をなくし、アグリビジネス投資を促そうとしている。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは、種子に関する政策の変更と化学肥料の施肥を強要することで、遺伝子組み換え種子とモンサントの様な多国籍企業と同じ認証の導入を可能にするものである。
・ 日本とG8諸国は、ベイラ・ナカラ回廊開発とザンベジ渓谷開発により、潜在的な天然資源と地下資源を含む地域の7割を、企業と各種機関を通して手中に収め、それによってモザンビークの地政学的、農業エコロジー的に重要な地域を支配しようとしている。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスの優先目標は、自国や多国籍の民間企業や一次産品生産主体、そして銀行を助けることである。具体的には、回廊開発を通じて彼らの投資を容易にし、グローバル市場に向けて一次産品を輸出させることである。この道を進めば、土地強奪、数百万人の強制的な住民移転と再定住、環境の悪化と社会・環境的な紛争など深刻な問題を引き起こすであろう。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは土地、水、エネルギーそして機械の広範かつ集約的な利用を必要とさせ、不可避的に多数の人びとと農村コミュニティを貧困に導く。
ProSavanaとニュー・アライアンスは、アフリカ大陸で構造調整政策を進めるための戦略を改善し、継続的に強化するステップの一部をなすものである。そのコンセプトと土台はモザンビーク政府が採用している開発モデルに直接結びついている。すなわち海外からの直接投資誘致と大規模プロジェクトを優先し、国内投資と圧倒的多数者である農民と農村コミュニティの利益を無視するものである。したがってADECRUは次のように主張する。
・ アフリカの民衆は自らの力による発展、自らの優先順位、夢、願望と要求に答える政策の立案者、また主人公になる能力を有する。
・ アフリカ諸国は、2013年のマプト宣言に基づき、農業部門向けの国家予算を10%以上増加するべき。
・ モザンビーク政府は食料主権、持続的農業と農業エコロジーを優先目標とする。これらは適切な食生活を振興し、飢餓を減少させるための持続的な解決策である。
・ モザンビーク政府は小農支援を軸とした農業部門政策を採用する。その優先事項は農村金融へのアクセス、農業普及の公的サービス、極小規模の灌漑、土地に固有で気候変動に耐性のある在来のタネの活用、生産能力創造につながる農村インフラストラクチャー、農村マーケティングを支援・活性化する政策である。
・ 世界銀行やJICA、その他によって進行中の、土地、種子、肥料に関する法的枠組みの改変プロセスを中断する。ProSavanaとニュー・アライアンスを緊急に凍結する。
・ いかなる状況によっても、またモザンビーク政府への圧力にかかわらず、土地は私有化しないこと。なぜなら土地はモザンビークの人びとが(植民地支配から)勝ち取ったものであり、主たる財産だからである。
ADECRUはアルマンド・エミリオ・ゲブーザ大統領および日本の安倍晋三首相に対し、モザンビーク、ブラジル、日本国民の正当な、かつ主権者としての要求に答え、マプトにおいて公式にProSavanaとニュー・アライアンスの凍結を宣言することを求める。また日本の首相が、進行中の日本のプログラムが引き起こした有害な結果について、全ての責任を公式に認めることを要求する。このプログラムは、ナカラ回廊における土地強奪、コミュニティの財産と生計の破壊を助長している。わたしたちはまた、二人の首脳に民主的対話の広範なメカニズムをつくることを求め、さらにProSavanaとニュー・アライアンスに反対する市民社会、社会運動の活動家、リーダーに対する裏工作や脅迫行為を助長した両政府のメンバーに刑事責任を求める。
アフリカおよびモザンビーク政府の諸組織は弱体で、日本政府、G8による国民主権への攻撃に立ち向かうことができず、これを黙認し続けてきたことを認識し、ADECRUは農民・環境・社会運動、農村コミュニティ、善良なる人びと、そして全アフリカの民衆に広範な動員に対し、モザンビーク全体さらに大陸全体の民衆運動の組織化と創造を呼びかけ、土地・水・財産・文化的遺産・歴史的共有財産に関わる自らの権利と利益を防衛するために立ち上がるよう求める。また、「ProSavanaとアフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス」に脅かされている全ての人びとに、これらのプログラムおよび全ての社会的・環境的な不正義に対する強烈で断固とした抵抗を呼びかける。
ADECRUは只今から、モザンビークにおけるProSavanaとニュー・アライアンスの実施を停止させるために、必要な全ての国内・国際的な法的手段を取ることを約束する。わたしたちは、人びとの財産である土地と天然資源を守り、真の農業改革を行い、コミュニティ、住民、国民の権利を守るために闘う無条件の誓いを、ここに再確認する。
2014年1月9日 マプト
ADECRU
訳者注:
本声明訳は、以下の英語版を参照して作成した。
http://farmlandgrab.org/post/view/23010-position-of-adecru-on-the-visit-of-prime-minister-of-japan-in-mozambique
(注1)ProSAVANA事業は、G8の食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンスの一事業として位置づけられている。日本はアメリカ政府と並び、モザンビークでの実施のG8担当国となっている。
(注2)G8ニュー・アライアンスは、2013年10月の外務省資料では10カ国に増え、6カ国に加え、ベナン、マラウイ、ナイジェリア、ガーナが参加。
(注3)外務省・JICAは「クイック・インパクト・プロジェクト」は行っていないと主張するが、当初同プロジェクトと関連づけられていたPDIFは二期にわたって募集・実施されており、またリークされた報告書に掲載されている同プロジェクトの半分近くがすでに実施中のものであった。
(注3)TICAD V時の討論会は横浜であったため、横浜に修正。
ADERCU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション)
http://farmlandgrab.org/uploads/attachment/ADECRU_s_Position_Paper_on_Abe_s_Visit_in_Japanese.pdf
2014年1月9日 マプト
日本の首相が、きたる1月11日から13日にモザンビークを公式訪問する。モザンビーク共和国大統領府の2013年12月24日発プレスリリースによれば、この訪問の主要な目的は両国の政治外交関係の戦略を評価することであり、またその一層の強化にむけた方策を定めることである。同様に、教育。エネルギー、農業分野での法的文書及び協力協定が交わされる予定である。
ADERCU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション)は、日本の安倍晋三首相の訪問及び日本のモザンビークとアフリカに対する外交政策が持つ、危険で帝国主義的な目的に反対し、断固拒否する。この目的は「両国国民の兄弟的な政治・友好関係を強化する」という外交的修辞の背後に隠されてはいるが、ProSavanaおよび『アフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス』.という名のプログラムに具体化されている(訳者注1)。安倍晋三首相の訪問は、日本のハイレベル・リーダーとしては初めての拡張主義的なものであるが、首相はこれに続いて、エティオピアとコートジボワールを訪問する。不思議なことに両国ともいわゆる「アフリカにおけるニュー・アライアンス」の対象国となっている。
我々の国への日本の首相の訪問に関するモザンビーク政府によるプレスリリースは、より広い文脈で理解する必要がある。すなわち、企業50社を従えたこの首相訪問は、21世紀においても進行し続ける構造調整の暴力的な最終段階の発現としてより広い文脈の中で理解されるべきものである。第二次大戦での敗北に由来する歴史的な諸問題と、今日のアジアにおける中国との覇権争いにより、日本は政策と外交目的を変えざるを得ない。日本は、数十年にわたりモザンビークの農業や他の部門の発展に貢献してきたが、米国やその他の勢力の帝国主義的利益に役立つ政策の施行者へと転換しつつある。
今日、日本の政府は、アフリカ大陸への侵入・占領・支配の「実働部隊、世界帝国主義の尖兵」となっている。正確には、アフリカ大陸とアフリカ民衆に対する企業の支配、そして植民地主義的征服であり、アフリカ人の主権―文化的多様性、生物多様性―への新たな攻撃であり、遺伝子組み換え種子を自由に導入・流通できる商業プラットフォームへと、アフリカを変質させるものである。そしてこのプラットフォームは鉱物資源開発企業および世界の食品産業の支配者・アグリビジネスからなる巨大多国籍企業群のためのものである。
モザンビークとアフリカにおける過去10年間の日本の政策とプレゼンスの危険性は、G8諸国と諸機関への屈辱的な依存と植民地主義的同盟に示されている。この同盟(ニュー・アライアンス)に加わっているのは、世界銀行、世界食糧農業機関(FAO)、 世界食糧計画(WFP)、日本国際協力機構(JICA)、 アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)、そして多国籍アグリビジネス(カーギル、伊藤忠、シンジェンタ、モンサント、ヤラ、African Cashew Initiative、Competitive African Cotton Initiative、Corvuns International、AGCO、日本植物燃料、ボーダフォン、SAMBMiller等)である。
日本は、植民地主義的な表現に従えば、もっとも経済的に発展した8カ国グループ(G8)の公式メンバーである。G8のその他のメンバーはアメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、ドイツ、カナダ、ロシアである。G8はモザンビーク政府を説得した結果、モザンビークでは前述した巨大多国籍企業と多国籍金融組織が「アフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス」と呼ばれる農業プログラムを実施している。
ニュー・アライアンスは、オバマ大統領のリーダーシップによりアメリカが最初に提案し、2009年のG8ラクイラ首脳会議(イタリア)で数カ国と金融機関、国際機関が合意したことから始まる。G8はアフリカ政府と協力して貧困削減のために5000万人を貧困から脱却させると主張した(うちモザンビークでは2022年までに310万人)。アフリカ20カ国が参加を計画しており、すでにブルキナファソ、コートジボワール、エティオピア、ガーナ、モザンビーク、タンザニアの6カ国が加盟している(訳者注2)。
モザンビークでのニュー・アライアンスは、世界銀行、WFP、JICA、USAIDと主要な多国籍アグリビジネスのリーダーシップのもとに進められている。「ニュー・アライアンス」の導入戦略は、包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)を取り込むことに基づいている。これは、G8の行動にある種の正当性を与えるためである。モザンビークでのニュー・アライアンス導入は、G8の農業分野での財政・技術支援を国別CAADPの優先投資計画である農業部門投資国家計画(PENISA)に沿ったものにするため、という理由付けがなされている。
日本は、植民地主義的三角協力において、別の巨大アグリビジネス・プログラム、いわゆるProSavanaのリーダーシップをとっているが、当該住民はこの三角協力に抗議している。ProSavanaは正式には2011年4月に発足、モザンビーク政府、ブラジル、日本の三角協力から生まれたもので、その目的は北部のナカラ回廊における熱帯サバンナの農業開発促進であるとされている。
すでに、ProSavanaの一部である「クイック・インパクト・プログラム」が実施されている(訳者注3)。しかし、モザンビークの市民社会が5月に横浜(第五回アフリカ開発会議)での公開討論で批判したように(訳者注4)、「クイック・インパクト・プログラムは通常カテゴリーAに分類されるプロジェクトであるにもかかわらず、こうしたプロジェクト執行に先立ってモザンビークの法が求める公開討論および環境影響評価の提出と承認が、全くなされていない」のである。
昨年12月の第五回ADERCU年次総会において、ニアサ、マニカ、ナンプーラ、ソファラ、ザンベジ各州におけるアグリビジネスとモノカルチャー植林の拡大について議論を行い、土地強奪、人権蹂躙、反対するコミュニティのリーダー達・運動・社会組織のメンバーに対する暴力と犯罪者扱いに関する責任は、現在の開発政策と農業プログラム(ProSavanaとアフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス)にあるとの結論に達した。またADECRUは、ナカラ回廊開発において起りつつある土地圧力の増加、人びとの追い立ての差し迫った危険、生計の破壊、水アクセスの困難、文化的遺産の破壊、社会・環境問題による紛争の責任は日本政府にあると確認した。
エコシステムと生物多様性の保全に民衆と農村コミュニティが果たしてきた貢献を再度確認し、自然環境を今の世代だけでなく将来世代の財産、集団の遺産とみなすコミュニティの価値観に照らせば、「現在進められている土地への権利の議論は、生活と生産の多様なあり方に価値がある」ことを無視している。 わたしたちは、土地、水、健康、教育、住居、安全な食への権利は相互に強く結びついており、政府と国家はこれを保証する主要な担い手でなければならないと主張し、これを再確認する。
ProSavanaとニュー・アライアンスは小農の耕作システムと家族農業の多面性を破壊するものであり、わたしたちはこうした帝国主義的なプログラムの危険性に警鐘を鳴らす。ProSavanaの道具であり、それを動かしているナカラ・ファンドとG8の食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンスは、小農の農業を破壊するものである。ナカラ回廊の農村コミュニティ、農民、社会運動、モザンビーク・ブラジル・日本の市民社会組織からの正当な、主権者としての要求に対し、モザンビーク政府、ブラジル、日本は答えようとしない。これは国民の主権を無視し、奪いとる行為である。
ADECRUは、ProSavana並びにニュー・アライアンスの実施を、以下の理由から批判し、拒否する。
・ モザンビークと全アフリカを「救う」ためにまとめられたこの政策は、新自由主義的で新植民地主義的同盟の意思決定の中核部で作られたものである。
・ 二重に有害な協定―ProSavanaとニュー・アライアンスの土台、基礎構造、戦略は、植民地時代とモザンビークとアフリカが500年間にわたって支配と抑圧に苦しんできた奴隷制の過去を思い起こさせ、人権と社会・環境の破壊をもたらす道を開くものである。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスはもっとも加虐的で攻撃的な搾取の道具であり、重商主義的な協力が再び始まっていることを告げている。しかもそれはアフリカを飢餓と貧困から解放するという慈善的な宣伝に隠されている。そして同じ多国籍機関と帝国主義諸列強が過去に行ってきた、いくつかのイニシアティブの失敗は無視されたままである
・ Prosavanaとニュー・アライアンスは土地の法的枠組みを弱めるための改変を促し進めている。この改変は、土地行政・政策をより透明で効率的なものにするという口実のもと、土地の貸与を、次いで土地の私有化を持ち込み、コミュニティと人びとの暮らしの維持と継続に不可欠な財産でもある土地の強奪を正当化するものである。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは、土地使用権証の取得を急がせることで、コミュニティとの協議をなくし、アグリビジネス投資を促そうとしている。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは、種子に関する政策の変更と化学肥料の施肥を強要することで、遺伝子組み換え種子とモンサントの様な多国籍企業と同じ認証の導入を可能にするものである。
・ 日本とG8諸国は、ベイラ・ナカラ回廊開発とザンベジ渓谷開発により、潜在的な天然資源と地下資源を含む地域の7割を、企業と各種機関を通して手中に収め、それによってモザンビークの地政学的、農業エコロジー的に重要な地域を支配しようとしている。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスの優先目標は、自国や多国籍の民間企業や一次産品生産主体、そして銀行を助けることである。具体的には、回廊開発を通じて彼らの投資を容易にし、グローバル市場に向けて一次産品を輸出させることである。この道を進めば、土地強奪、数百万人の強制的な住民移転と再定住、環境の悪化と社会・環境的な紛争など深刻な問題を引き起こすであろう。
・ ProSavanaとニュー・アライアンスは土地、水、エネルギーそして機械の広範かつ集約的な利用を必要とさせ、不可避的に多数の人びとと農村コミュニティを貧困に導く。
ProSavanaとニュー・アライアンスは、アフリカ大陸で構造調整政策を進めるための戦略を改善し、継続的に強化するステップの一部をなすものである。そのコンセプトと土台はモザンビーク政府が採用している開発モデルに直接結びついている。すなわち海外からの直接投資誘致と大規模プロジェクトを優先し、国内投資と圧倒的多数者である農民と農村コミュニティの利益を無視するものである。したがってADECRUは次のように主張する。
・ アフリカの民衆は自らの力による発展、自らの優先順位、夢、願望と要求に答える政策の立案者、また主人公になる能力を有する。
・ アフリカ諸国は、2013年のマプト宣言に基づき、農業部門向けの国家予算を10%以上増加するべき。
・ モザンビーク政府は食料主権、持続的農業と農業エコロジーを優先目標とする。これらは適切な食生活を振興し、飢餓を減少させるための持続的な解決策である。
・ モザンビーク政府は小農支援を軸とした農業部門政策を採用する。その優先事項は農村金融へのアクセス、農業普及の公的サービス、極小規模の灌漑、土地に固有で気候変動に耐性のある在来のタネの活用、生産能力創造につながる農村インフラストラクチャー、農村マーケティングを支援・活性化する政策である。
・ 世界銀行やJICA、その他によって進行中の、土地、種子、肥料に関する法的枠組みの改変プロセスを中断する。ProSavanaとニュー・アライアンスを緊急に凍結する。
・ いかなる状況によっても、またモザンビーク政府への圧力にかかわらず、土地は私有化しないこと。なぜなら土地はモザンビークの人びとが(植民地支配から)勝ち取ったものであり、主たる財産だからである。
ADECRUはアルマンド・エミリオ・ゲブーザ大統領および日本の安倍晋三首相に対し、モザンビーク、ブラジル、日本国民の正当な、かつ主権者としての要求に答え、マプトにおいて公式にProSavanaとニュー・アライアンスの凍結を宣言することを求める。また日本の首相が、進行中の日本のプログラムが引き起こした有害な結果について、全ての責任を公式に認めることを要求する。このプログラムは、ナカラ回廊における土地強奪、コミュニティの財産と生計の破壊を助長している。わたしたちはまた、二人の首脳に民主的対話の広範なメカニズムをつくることを求め、さらにProSavanaとニュー・アライアンスに反対する市民社会、社会運動の活動家、リーダーに対する裏工作や脅迫行為を助長した両政府のメンバーに刑事責任を求める。
アフリカおよびモザンビーク政府の諸組織は弱体で、日本政府、G8による国民主権への攻撃に立ち向かうことができず、これを黙認し続けてきたことを認識し、ADECRUは農民・環境・社会運動、農村コミュニティ、善良なる人びと、そして全アフリカの民衆に広範な動員に対し、モザンビーク全体さらに大陸全体の民衆運動の組織化と創造を呼びかけ、土地・水・財産・文化的遺産・歴史的共有財産に関わる自らの権利と利益を防衛するために立ち上がるよう求める。また、「ProSavanaとアフリカの食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンス」に脅かされている全ての人びとに、これらのプログラムおよび全ての社会的・環境的な不正義に対する強烈で断固とした抵抗を呼びかける。
ADECRUは只今から、モザンビークにおけるProSavanaとニュー・アライアンスの実施を停止させるために、必要な全ての国内・国際的な法的手段を取ることを約束する。わたしたちは、人びとの財産である土地と天然資源を守り、真の農業改革を行い、コミュニティ、住民、国民の権利を守るために闘う無条件の誓いを、ここに再確認する。
2014年1月9日 マプト
ADECRU
訳者注:
本声明訳は、以下の英語版を参照して作成した。
http://farmlandgrab.org/post/view/23010-position-of-adecru-on-the-visit-of-prime-minister-of-japan-in-mozambique
(注1)ProSAVANA事業は、G8の食料安全保障と栄養のためのニュー・アライアンスの一事業として位置づけられている。日本はアメリカ政府と並び、モザンビークでの実施のG8担当国となっている。
(注2)G8ニュー・アライアンスは、2013年10月の外務省資料では10カ国に増え、6カ国に加え、ベナン、マラウイ、ナイジェリア、ガーナが参加。
(注3)外務省・JICAは「クイック・インパクト・プロジェクト」は行っていないと主張するが、当初同プロジェクトと関連づけられていたPDIFは二期にわたって募集・実施されており、またリークされた報告書に掲載されている同プロジェクトの半分近くがすでに実施中のものであった。
(注3)TICAD V時の討論会は横浜であったため、横浜に修正。